作曲家・酒井健治

作曲は長年欧州で活動し、現代クラシック界を代表する作曲家となった酒井健治である。2017年頃、ソニックシティ側からオペラ作曲の打診を受けた。オペラの作曲はこれが初めてだ。だが、新型コロナウイルス禍によって、当初2023年上演予定だった公演の大幅延期を余儀なくされた。酒井は「特にオペラの作曲モチベーションは脚本によるところが大きいが、田渕久美子さんの脚本は本当に素晴らしかった」と語り、延期による落胆を遙かに上回る創作意欲を発揮できたことを明かした。

脚本家・田渕久美子

脚本を担当した田渕はNHK大河ドラマ「篤姫」などで知られる、当代随一の脚本家である。意外にもオペラの脚本執筆は初めて。田渕はこう話す。「これまでテレビドラマを手がけてきたので、オペラという話に驚きました。オペラは門外漢でしたが、いろいろ学ばせていただいた。活躍する男性のそばには必ず女性がいる。そのことを今の時代を反映させて描いた」

（左から）酒井、指揮者・下野竜也、演出家・田尾下哲

演奏は下野竜也指揮読売日本交響楽団、演出が田尾下哲と、これまたトップクラスの人材がそろう。下野は「酒井さんのオペラ第1作の指揮を任され、とても責任はありますが、嬉しく思います」
これまで多数のオペラ演出を手がけてきた田尾下は、平家物語上演を最も待ち望んでいた一人だろう。2020年の新型コロナ感染拡大後、新作オペラの演出は初めてとなる。「コロナの時にやったことはいろいろ批判されて悔しい思いもありましたが、こうしてまたオペラができること、万感の思いです。5年間ずっと耐えてきました」。言葉にも力がこもった。

バリトン・池内響（左）と川越未晴

歌手陣では、主役の平清盛役にバリトンの池内響、清盛の娘で物語の重要人物である平徳子（建礼門院）役にソプラノの川越未晴など、実力派が出演する。池内は「オペラ作品としての清盛像、僕の清盛をお見せしたい」。川越は「徳子は平家の栄華から滅亡まですべてを知り、生き残った女性。私の考え方次第でキャラクターが深まる」と意気込む。