オペラ「平家物語」 脚本家・田渕久美子&演出家・田尾下哲インタビュー
2500人の大ホールで「大きな表現」を

2025.06.30 岩崎 貴行(ジャーナリスト・文筆家)

脚本家の田渕久美子(左)と演出家の田尾下哲

ソニックシティが2025年10月4・5日に世界初上演する新作オペラ「平家物語-平清盛」は、日本文学史上に残る壮大な物語を舞台化するとあって、早くも大きな話題を集めている。とりわけ、舞台を彩る脚本はドラマなどで活躍する田渕久美子、演出はオペラ・演劇界で高い評価を受ける田尾下哲と当代随一の2人が揃った。田渕、田尾下に作品への思いを聞いた。
自分の限界まで挑戦した
── オペラの脚本を依頼された時、どのように感じましたか?
(田渕)「本当に感謝の気持ちでいっぱいです。オペラという舞台で声をかけていただけること自体、なかなかあることではありません。責任も大きいですし、学ぶことが非常に多くありました。
オペラの魅力は、壮大な世界を表現できる楽しさにあると思います。これまで落語や狂言など、さまざまなジャンルに挑戦してきて、その度に学びがありました。
その経験を生かして今回のオペラでは自分の限界に挑むことができたと思います。本当に楽しかったです。」
フルメンバーは久しぶり
── 新演出のオペラは久々と会見でおっしゃっていましたが、その思いを改めてうかがえますか?
(田尾下)「コロナ禍を抜けた2025年に上演というのは、まさにちょうどいいタイミングです。西洋演劇とオペラが本業の僕にとって、フルメンバー、制約なしのオペラは本当に久しぶりです。しかも今回は日本語です。言葉をどう伝えるか。言葉の意味合いやニュアンスなど、ソニックシティの大劇場で一番後ろに座っている人にも届ける『大きな表現』をしながら、きちんと近くで見ても芝居として成立する作品にしたい」
田渕さんとオペラは相性がいい
── 平家物語の脚本が田渕さんだと聞いてどう思いましたか?
(田尾下)「オペラには大河ドラマ的な要素が詰まっているので、田渕さんとは相性がいいと思いました。言葉が紡がれるドラマとしてテンポがいいし、言葉の響きの美しさがある。これをお客さんに届けたい。半分演劇だと思ってやります。オペラ歌手にもリアルな芝居を求め、演劇的な要素を強調したい」
インタビューで笑顔を見せる田渕久美子

清盛、舞台上にいなくても存在感絶大

── 平家物語という題材についてどう考えますか?

(田渕)「『平家物語』は、多くの方がそれぞれに強い愛着を持っている物語だと思います。広く知られた作品であるからこそ、登場人物の描き方にはとても苦労しました。
たとえば『平家物語』の中で、どうしても「壇ノ浦の戦い」は描きたくなる場面ですが、実際には平清盛が物語の終盤には登場しないにもかかわらず、その存在感は圧倒的で、最後まで物語の核に据えられています。清盛という人物の影響力や存在の大きさを、改めて強く感じました。
私自身、清盛をもっと深く掘り下げて描きたいという思いもありましたが、それぞれの方が想像する“清盛像”を大切にしたかったので、そこはあえて動かさずに、今回は女性たちに焦点を当てて描くことにしました。」

インタビューに応じる田尾下哲

男の身勝手さが災難を生んだ様を描く

(田尾下)「オペラは脚本家と作曲家が書いてまず解釈するので、演出家である私は作品が出来上がった後に加わる2次解釈者になります。田渕さんの言葉、物語を酒井さんが解釈したものを私が解釈するわけですが、新しい作品ですので私も1次解釈に関わりたいという思いでいる。女性を中心に据え、男の身勝手さが災難を生んだ様を描くほか、清盛をフィーチャーして場面設定をする。盛者必衰の物語がどうなるのか。ドキュメンタリーのように見て欲しいですし、いい意味で完結させたい」

キャラクターの絞り方苦労した
── 脚本で工夫した点、苦労した点は?
(田渕)「ミュージカルの脚本は経験があるのですが、オペラとなると正直、最初は全く想像がつきませんでした。語りがそのまま歌になるという世界これまで見たことがなかったし、私自身にもそのための想像力が足りていなかったんです。
セリフを歌にする、というのはどこかピンと来なくて、「本当に成り立つのだろうか」と不安に思っていたところ、作曲の酒井健治さんが「作曲しやすいです」とおっしゃってくださって。
そのひと言にすごく背中を押されて、「あ、こういう形でも成り立つんだ」と考えることができて、そこから前に進むことができました。」
脚本上の工夫としては、やはりキャラクターをどう絞り込むかという点が大きかったですね。
『平家物語』という壮大な物語を、限られた時間の中で舞台化するには、要素をぎゅっと圧縮する必要があります。どの登場人物を描き、どこを削ぎ落とすかという選択には、とても神経を使いました。」
── 演出のポイントは?
(田尾下)「先ほども少し言いましたが、ソニックシティはとても広いので、使う布を大きくしたり、ステージ全体が変化するなど、スケールを大きくしたい。火事の場面など、灯りや煙のエフェクトではなく人が手をかけて表現する舞台にしたい。『大きな表現』を意識したい。音楽的には指揮者の下野竜也さんがいるので全幅の信頼を置いていますし、キャストも皆若くて勢いがある方ばかり。ソニックは大きいので、後ろの席でも伝えられるようになりたい」
オペラ歌手、生の声を遠くまで響かせるすごさ
── オペラ(この作品)はどんな芸術か。またオペラ(この作品)に触れることで何を感じて欲しいか?
(田尾下)「オペラでないと、ソニックのような2500人の大ホールではとてもできない。演劇だと700~800人が限界だと思います。オペラ歌手というのはすごい人たちで、2500人の観客にもマイクを使わず、生の声や言葉を遠くまで響かせることができる。そのすごさを見て欲しいですし、まずは体験して欲しい」

新作オペラ「平家物語」に関する幅広い話題が展開された

今の時代を生き、今舞台を見ている人に響くような作品に
── 平家物語の普遍性について
(田渕)「歴史物を扱う際には、常に「今」とのつながりを意識しています。単に当時の出来事をなぞるのではなく、「今」の時代を生き、「今」舞台を観てくださる方の胸に響くよう、作品作りにはこだわっています。特に日本では、いまなお男女格差の問題が深刻です。だからこそ、そうした社会の空気感を物語に反映させていきたいと思っています。」
── 田渕さんは自身の作品で常に女性を意識している
(田渕) 「そうですね。例えば、大河ドラマは基本的に男性を主人公に据えた物語がほとんどです。『篤姫』のときも、「女性が主人公なんて視聴者には受けない」と言われました。だからこそ逆にやってみようと思いました。
女性が幸せに、自分らしく生き生きと暮らせる世の中になってほしい。なるべきだ。今回のオペラにも、そんな願いを込めました。そのあたりをぜひご覧いただきたいですね。」

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オペラ「平家物語~平清盛~」の
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7月公開予定

2025年
10 4 (土) /5 (日)
14 時開演

会場:ソニックシティ大ホールさいたま市大宮区桜木町1-7-2
(JR大宮駅西口 徒歩3分)

  • ソニックシティホール
    メンバーズ会員先行発売:5月14日(水)
  • 一般発売:5月20日(火)

S席 17,000円 A席 14,000円 B席 11,000円 C席 8,000円 D席 5,000円 Ys席 5,000円

ご注意事項

  • 車イス(10席)のご利用についてはソニックシティホールまでお問合せください。
  • お申込みいただいたチケットの変更・キャンセルは出来ませんのでご了承ください。
  • 未就学児同伴のご入場はご遠慮願います。
  • 出演者は変更となることがございますので予めご了承ください。
  • Ys席は25歳以下の方限定(A席またはB席から選択可)

チケット取り扱いソニックシティホールメンバーズ事務局

048-647-7722(平日9時〜17時)

主催:(公財)埼玉県産業文化センター 協賛:(株)しまむら (公社)さいたま観光国際協会 協力:ガーデングループ (株)武蔵野銀行
衣裳協力:秩父市 木村和恵(花織り人・銘仙語り部)
主  催: (公)埼玉県産業文化センター 
協  賛: (株)しまむら
(公社)さいたま観光国際協会
協  力: ガーデングループ (株)武蔵野銀行
衣裳協力: 秩父市
木村和恵(花織り人・銘仙語り部)